2016年10月27日、イスラム国(IS)系メディア「アマーク通信」(アマク通信の表記もあり)は、モスル北方のタルキフで、クルド自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」の重機を、対戦車ミサイルで攻撃する動画を公開した。イラク政府軍、シーア派民兵組織及びクルド人部隊によるモスル「解放」作戦の開始以降、 ISはモスル周辺で塹壕を掘るクルド人部隊のショベルカーやブルドーザーを破壊する動画を複数公開している。
ところで、モスルの周辺で塹壕を掘っているのが、守りを固めるISなら理解できるが、攻める側のクルド人部隊が対戦車ミサイルの餌食になるリスクも顧みず、モスルから少し離れた周辺地域で長大な塹壕を懸命に掘っているのは、いかにも奇妙である。
実は、クルド人部隊はIS対策で塹壕を掘っているのではない。本当の目的は、イラク政府軍を寄せ付けないことである。 モスル解放作戦のドサクサに紛れて、「クルド人国家」の国境線に沿ってイラク北部で塹壕を掘っているのである。
「ペシュメルガ」に従軍取材しているアルジャジーラの記者が、クルド人の将校に直接インタビューしており、その将校は堂々と、「塹壕は将来のクルド人国家の国境線を表しており、我々はこの土地から一切退くつもりはない」と明言している。上の画像のリンク先がそのレポートであり、当該インタビューと長大な塹壕づくりの様子が含まれている。
「過激」で「残虐」なイスラム国が支配するモスルを「解放」するという「正義」の戦いのように報じられているが、その裏では、身もふたもない思惑と策略の下で、周辺地域の勢力が蠢いているのである。