2015年5月3日にテキサス州で起きたイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画コンテスト襲撃事件であるが、イスラム国から公式の反応が出された。

イスラム国は、「アルバヤーン」という公式ラジオ放送局を運営している。詳細は以下の過去記事を参照。ネットを通じた音声ファイルの配信だけでなく、イラク現地では電波放送も行われている。

【イスラム国】公式ラジオ放送局『アルバヤン』の紹介動画

【イスラム国】 イエメンでホウシー派を標的とした礼拝堂での「殉教攻撃」 公式ネットラジオ「アルバヤン」で声明

そして今回の事件について、「アルバヤン」放送が、テキサス州での襲撃事件の実行者2人はカリフ国(イスラム国)の戦士であるとするニュースを報じた。なお、英語音声版も用意されている

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※32秒ぐらいから英語による音声が始まる


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今回の事件で、次のような流れがほぼ確立したと言える。

(1)シリア・イラク以外の遠隔地において、
  現地レベル(地方支部又は支持者ら単体)で独自に作戦を企画・実行
    ↓   ↓   ↓
(2)イスラム国本部が、当該作戦の目的及び成果を評価
    ↓   ↓   ↓
(3)公式ラジオ放送「アルバヤン」によって、当該作戦を事後承認・称賛

なお、先日アフガニスタンのジャララバードで発生した銀行前爆発事件においては、(2)の評価の結果、イスラム国の現地支部「ホラーサーン県」から関与を否定する声明が出されている。この事件で犠牲となったのが一般のアフガン人ばかりであったため、イスラム国本部からの承認が出なかったものと見られる。

上記の流れを踏まえるならば、こうしたアルバヤンからの発表について、以下のAFP通信の報道のように「イスラム国の犯行声明」と単純に報じるべきか、一考すべき時期が来ている。イスラム国が掲げるカリフ制再興やシャリーアによる統治に共感し、その主義主張を適切に理解している者なら、誰もが「イスラム国の犯行」を行い得てしまうためである。

IS、米テキサス州の発砲事件で犯行声明 米国内で初の攻撃か(AFP 2015年05月05日 18:10)

【5月5日 AFP】(一部更新)イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic State、IS)」は5日、米テキサス(Texas)ガーランド(Garland)で4日に起きた発砲事件の犯行声明を出した。ISが米国内で攻撃を行ったとして犯行声明を出したのは初めて。

ISは「カリフ国の兵士2人がテキサス州ガーランドの美術展示会で攻撃を実施し、この展示会は預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)の否定的な絵を展示したものだった」と発表した。「われわれはアメリカに告げる、今後起きることはさらに大きく、より厳しいと。お前たちはイスラミック・ステートの兵士たちが恐ろしいことをするのを見るだろう」

※2015年5月10日追記
AFP通信の続報で、当該事件はイスラム国に「触発されたものではあるが、ISが命令したものではない」とのアメリカ国防長官の見方が報じられた。「この点が重要な特徴だ」とまで指摘しており、当ブログ管理人の視点と完全に一致している。事実上、AFPは先の報道を修正した形となった。

以下、当該記事の一部引用

テキサス発砲事件、「ISの指示ではない」 米国防長官
2015年05月08日 10:07 発信地:ワシントンD.C./米国

【5月8日 AFP】米テキサス(Texas)州で起きたイスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)の風刺画イベントを標的とした発砲事件について、アシュトン・カーター(Ashton Carter)国防長官は7日、イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic State、IS)」に触発されたものではあるが、ISが命令したものではないとの見方を示した。(中略)
これまでの捜査から事件はISに触発されたものだがISが指示したものではないと述べ、この点が「重要な特徴だ」と強調し、同様にISに触発された個人が類似の事件を起こす恐れがあるとの懸念を示した。さらに、ISのオンライン宣伝活動に影響されてテキサスの事件が起きたことも、ISの撲滅が重要であることを示していると説明した。(c)AFP