トルコ軍機によって撃墜されたロシア軍機のパイロットを拘束(または遺体を収容)したのは、アサド政権と敵対する反体制組織「自由シリア軍」傘下のトルクメン系部隊である「沿岸第10旅団」であることは、当ブログにおいて既にお知らせしたとおりである。

ところが、またしても我が国の公共放送局が、見当違いな報道をしている。ロシア人パイロットを拘束したのは、何と、アルカイダ系のジハード主義組織「ヌスラ戦線」であると強弁しているのだ。

以下、NHKの配信記事から、該当箇所を引用してみよう。

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ロシア軍 最新の地対空ミサイルシステム配備へ
(11月25日 19時09分)
【撃墜があった地域を支配する勢力は】 
ロシア軍は9月から過激派組織IS=イスラミックステートを壊滅するとしてシリアでの空爆を始め、爆撃機が撃墜されたシリア北部のトルコ国境付近でも重点的に空爆を行っています。この地域は、アラブ人とトルコ系民族などが混在していて、トルコ系民族の一部も反政府勢力の部隊に参加していますが、この地域の最大勢力は、国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織「ヌスラ戦線」です。
ロシア軍は、この組織への空爆を続けているとみられ、空爆の支援を受けてアサド政権の政府軍が進撃し、ヌスラ戦線を徐々に押し返していました。
爆撃機の撃墜のあとインターネット上に公開された映像では、武装した男たちがアラビア語で「これがロシアの爆撃機の乗員だ。神は偉大なり」と叫ぶ様子が映っていて、男たちはヌスラ戦線を含む反政府勢力のメンバーと見られています。
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「トルコ系民族」というのは、トルクメン人のことである。こうした言い換えにも、物事をあまり深く複雑に考えたくないという本音が透けて見える。NHKはこの事件の背景として、シリアのトルクメン人問題の重要性に薄々気づいていながら、シリア北西部一帯を見た時に、ヌスラ戦線が最大勢力であるというだけの理由で、その可能性を強引に閉ざし、思考停止を決め込んでいる。一般の視聴者向けに分かりやすさを優先したのかもしれない。だがそれでは、たった数十秒という些細な領空侵犯を理由に、トルコがなぜロシア軍機の撃墜にまで踏み切ったかを、永遠に理解することはできないだろう。

しかも、ロシア人パイロットを拘束したのがヌスラ戦線であると結論づける根拠が、拘束の様子が撮影された動画で、「これがロシアの爆撃機の乗員だ。神は偉大なり」と叫んでいたことだけなのだ。「神は偉大なり」と叫べばいわゆる「イスラム過激派」なのだろうか。こんな理屈が成り立つなら、全世界のイスラム教徒は、全員がヌスラ戦線のメンバーであろう。

更に極めつけは、NHKがさも得意げにアラビア語を分析したなどと強調する撃墜後の動画について、ロシア人パイロットを拘束した戦闘員自身が、「第10旅団がロシア人のパイロットを拘束した!」と高らかに宣言しているのである。次の動画のタイムコード0:27から、耳をかっぽじって聞いてみてほしい。

ひょっとすると、NHKの通訳のヒアリング能力の欠如が原因かもしれないので、アラビア語の発言の文字起こしも記しておくことにしよう。動画と併せてこのテキストを突き付ければ、無能な通訳も反論できないだろう。
"قام اللواء العاشر في كمش الطيار الروسي" 
(カーマ・リワー・アーシル・フィー・ケムシュ・タイヤール・ルーシー)
「第10旅団がロシア人のパイロットを拘束したぞ!」 

第10旅団とは、自由シリア軍傘下のトルクメン人系部隊である「沿岸第10旅団」のことである。この部隊からはご丁寧にも、ロシア人拘束に関する公式声明まで発出されているので、再掲しておこう。この声明からも、反体制派の自由シリア軍傘下の部隊であり、アルカイダ系のヌスラ戦線とは無関係であることは明白である。ロシアの爆撃機は当時、トルクメン人部隊を攻撃するアサド政権の部隊を援護していたのだ。すなわち、トルコ軍は、トルクメン人の反体制派部隊を守るために、ロシアの軍用機を撃墜するというハイリスクな行動に打って出たのである。詳細については、当ブログの過去記事を参照ありたい。
トルクメン系「沿岸第十旅団」声明

去る3月に起きたチュニジアのバルドー博物館襲撃の実行組織はイスラム国であることを、先日NHKが漸く認めたと思ったら、この有様である。だが、誰にでも間違いというものは起こり得る。完全さはアラーのみに帰す。NHKの方々におかれては、是非勉強し直していただきたい。