イスラム国(IS)系メディアの「アマーク通信」は6月21日付の速報で、イラクのモスル中心部にある「ヌーリ・モスク」とハドバー・ミナレット(光塔)がアメリカ軍の空爆によって破壊されたと伝えた。一方、イラク軍は「ISが自ら爆破した」などと主張しており、NHK、時事通信など、日本の主要メディアはイラク軍の発表にそった報道をしている。バグダディ指導者の死亡説をどれほど繰り返しても、イラク軍の発表の信頼性は確固たるもので揺らがないようだ。
イスラム国をめぐっては、「IS=絶対悪」というポリティカル・コレクトネスを前提とした報道が行われている。ISをめぐる複雑な国際情勢に関して、日本人の平均的な理解レベルを鑑みれば、テレビ局や大手紙など影響力の大きい報道機関は、こうした態度を取らざるを得ない。両論併記では「絶対悪」に配慮し過ぎという判断となる。従って、今回のアマーク通信社の報道も、ほぼ無視されているのが現状である。
ところで、アマーク通信社の信憑性については、産経新聞の佐藤貴生という記者が、「ISの通信社、宣伝機関に転換か 「誤報」しばしば、信憑性に疑問符」という記事を執筆している。記事で佐藤氏は、イスラム教徒を敵視するフィリピン治安当局や、イスラエルに対する攻撃なら条件反射で歓迎するハマスの主張には疑念をむけることなく、イスラム国(IS)の主張を一蹴している。その上で、次のように主張する。
「・・・最近のISの犯行声明は傘下にあるとされる通信社、アマクを通じて出されることが多い。かつては信頼度が高いとみられていたが、欧米のテロ専門家の間では、アマクは若者たちを扇動するためのプロパガンダ(政治宣伝)機関になったとの意見もある。虚偽の出来事を事実であるかのように報じる「フェイクニュース」を発信していると皮肉る見方さえ出ている・・・」
まず基本的な知識として、ISの「犯行声明」がアマク通信社から出されることはない。赤色と青色の公式声明の画像は、イスラム国「本部」から必ず配信される。アマク通信社から出されるのは、「攻撃を行ったのはイスラム国の戦士である」といった事実関係に関する内容の報道であり、これが本来の声明に先行することが多いため、事実上の「犯行声明」として、世界のメディアによって扱われているのが実態である。
また、産経新聞の佐藤貴生氏は「欧米のテロ専門家」の発言を引用し、アマク通信がプロパガンダ機関になり、フェイクニュースを発信しているとしているが、いわゆる「プロパガンダ」を行う広報部門ならISに別途存在するので、アマク通信がこれを行う必要はない。ISの広報に対する初歩的理解を欠いていると言わざるを得ない。日本より議論のレベルが高い「欧米のテロ専門家」で、こうした大雑把な主張はめずらしいが、一体誰なのだろうか。
また、アマク通信の配信記事を日々フォローしていればわかることだが、アマク通信は誤りを訂正する柔軟性を備えているなど、内容の正確さの追求及びその信憑性の高さは、腐敗した中東諸国の国営通信などとは比較にならない。
※アマク通信による誤りの訂正の例
アブハシャブという町の場所を訂正したケース
アマク通信が配信の対象としているのは、情報統制された独裁国家の住民ではなく、全世界のスンニ派イスラム教徒であり、常に厳しい検証の目に晒されている。そのため、真実をすべて伝えることはなくとも、虚偽の情報を流すことは全く利益にならないのである。アブハシャブという町の場所を訂正したケース
こうしたアマク通信の特異性については、佐藤氏自身が記事の中で「かつては信頼度が高いとみられていた」と書いているとおりであり、実際のところ今も変わりはないのである。
↓産経新聞カイロ支局・佐藤貴生氏によるISの関与を否定する主張
この映像についてはどう思われますか。内部に爆弾を仕掛けたようにも見えますが、信頼していい情報なのかどうかわかりません。